「お日さまおそい みんなもおそい」

フィリップ・ステッド 文 エリン・ステッド 絵 金原瑞人 訳
(2023年5月25日発行予定)

(作品紹介)

自然=生命をテーマにしたシリーズの最後の作品には、7冊目の『音楽をお月さまに』と同じフィリップ&エリン・ステッド夫妻の最新作『おひさま・・・』を選びました。

日が昇り、一日が始まります。むかしまだ今のように便利でなかった時代は、日の出から日没までの時間が外で働ける昼間の時間、夜は休息し眠る時間でした。1日は24時間、でも季節によって昼間の時間は変化します。夏の間はだいたい2〜3時間ほど長く、冬はその逆に短くなります。緯度が60度を超える極地ではこの変化はもっと極端に変化します。そしてそのおひさまが東の空に昇ってくるのが一番早いのは、夏至の一週間前、日が沈むのが一番遅い日は夏至の一週間後。何故か少しずれているのですが、秋から冬へ日は、一日一日短くなっていきます。これは太陽と地球の位置の関係で決まる自然の世界が用意した季節と時間のプログラムを反映しています。

 

この作品の舞台は広大な牧場、季節はおそらく6月から7月頃でしょう。今まで一日一日早くなってきた日の出の時間が逆に遅くなり始める転換点です。これは多分描かれている牧草や麦の枯れ具合やトウモロコシの穂の出具合からも推測できます。初夏は生き物たちの繁殖期、野山に生き物たちがあふれる季節です。温度の上昇と共に、植物たちの成長速度も加速していきます。家畜たちもみんな元気で食欲も旺盛な季節です。そして、物語は、主人公である牧場に暮らす3頭の家畜たち(Mule ラバ、Milk cow 乳ウシ、Miniature Horse 小型のウマ)が、お日さまがなかなか昇ってこないと、本気で心配しはじめることからはじまります。

「ねぇ?おかしくない?」「どうしたんだろう?」「お日さま お寝坊してるのかな?」って。

こうして夜明け前のまだ暗い大草原を横断し、お日さまを探す3頭の冒険が始まります。動物たちの目線は低く、無垢で、子どもたちの無邪気な好奇心を刺激するはずです。

絵本の翻訳で苦心するのは、意味を正しく訳すことに加えて、各所に散りばめられた音楽的な輝きやリズムが生み出す面白さをどうにか工夫して再現するかです。因みに、絵を見れば英語のMule(ラバ)はラバであることが一目瞭然、でもという発音はに似ていません? は乳牛、そして牛乳はミルク?  は連想ゲームのようですが、– 時間単位の分と時? それともHourはで玉子(フランス語)? 

まるで朝食のメニューです。専門的にはオノマトペとか、韻遊とか、いうのでしょうか?いつもどこかで言葉とコトバとが、意味と音とが、互いに絡み合ってダンスを始めます。ここではMの音が韻を踏んでいます。Mで始まる3頭の家畜の体内時計が食欲を刺激して、いつもとは違うことが起こっているのを敏感に感じとったのかもしれません。「もう朝ごはんのはずなのに・・・」と。

 

お日さまの行方を心配して広大な農場のはずれまで探検に出かけた3匹も、お日さまが無事に昇り、明るい朝の光の中で、無事にいつもの美味しい朝ごはんを食べています。平和な農場の日常風景の中をおそるおそる進む3頭が、朝を作り出しています。淡々と描かれ夜明け前の蒼い空色と3頭がしあわせそうに食べている干草の黄色の対比が見事です。

この12冊シリーズのテーマである「自然=生命」には、自然が太古の生命の源であること、何億年にもおよぶ長い進化の歴史を共有していること、そして生命は相互に共生する生態系として自然そのものであるMother Earthへの想いを込められています。私たちカクイチ研究所は、長野県軽井沢、浅間山南麓の別荘地の間の小農場で、微生物の働きに注目し土を育てる再生農業の方法を研究しています。この大農場に暮らす3頭の家畜たちの穏やかな夏の朝を描いたTHE SUN IS LATE SO IS THE FARMER 「お日さまおそい みんなもおそい」の一冊は、何故だか私たちの研究の未来を示しているような気がします。