「クリスマスにオオカミは」

ティエリー・デデュー 絵・文 大野博人 訳
(2021年1月25日発行)

 

(作品紹介)

この作品は、フランスで2017年に発売されたティエリー・デデューのクリスマス連作の第3作です。前作の「雪ダルマはいきている」では森の仲間たちとの友情がテーマでした。ティエリーの作品の根底には、わたしたち大人たちも等しく共有すべき生命をめぐる「勇気」と「信頼」をめぐる問いが隠されています。前作「雪ダルマは生きている」では、森のなかまたちとの友情の芽生えと春の訪れと共に融けてしまう雪ダルマの別れのさだめが描かれていました。雪ダルマの行方を追って、森のなかまたちが大捜索作戦を敢行します。行動することで、世界は広がっていきます。雪ダルマはただ消えてしまったのではなく、水になり、雲になり、風に乗って世界中をめぐり、冬にはまた雪になって戻ってくる森羅万象を貫く生命の大きな円環的な時間が暗示されていました。

 

君ならどうする?

しかし、作者はこの第3作「クリスマスに オオカミは」で、作者はあえてクリスマスのお祝いの時に森で一番の嫌われものであるオオカミを主人公に選んでいます。孤独や戸惑い、心の中の葛藤と不安は、こともたちにとってひねり過ぎたテーマでしょうか?森のなかまたちの行動を通じて、あえてこどもたちのこころの内側の問題、嫌われること、弱いことの意味と対応姿勢を見つめようとしているのかもしれません。テデューの作風からすると、オオカミの表情を描き出す素朴なタッチは少し異風ですが、逆にこころをめぐる問題の繊細さをよく表していると感じます。昨今の学校生活でのいじめや引きこもりの問題にも通底するこころの動きが捉えられています。コロナ禍で人と人との距離感が微妙な問題になってきている中で、こどもたちのこころがどんな未来に共感するのか?私たちはそれを傍で感じとることができるのでしょうか?こどもたちのこころがどう動き、その微妙なサインはどんな形で現れれくるのでしょうか?嫌われ者のオオカミのものがたりはかならずしも明確は結末を示してはいません。しかし、作者は「君ならどうする?何を大切にするの?」と、一人一人のこころに灯りを灯すチャンスを求めたのではないでしょうか?